ペットロスを救うのは周囲の理解


 大学院で心理学を専攻し、現在は臨床心理士として活躍する吉田先生だが、じつは獣医大学出身だ。学生時代に経験した病院実習でペットロスに苦しむ人の存在を知り、さらに大学院生の時、日本人の動物観を調査した際、ペット霊園で悲しみにくれる参拝者を目の当たりにした。その後も自らの心理臨床経験や獣医療の現場からの声を聞くにつけ、ペットロス経験者の心のケアの必要性を痛感。今の研究につながっているのだという。

 先生は機会あるごとに「伴侶動物の死に臨むクライエントへの慎重で手厚い配慮を」と獣医療関係者に呼びかける。「直接ペットの死に携わる現場にいる獣医師や動物看護士こそ、ペットロス体験者の心のケアをするのに最も重要な人たちです」と先生。しかし、獣医師も看護士もペットロスに苦しむ経験者を前にして、“どうしていいのかわからないでいる”というのが現状のようだ。

 あまりの苦しみに病院の診療を受けたところ、ペットロスが原因であることを述べたら医療関係者に笑われた、という信じがたい実話もある。

 感情を素直に出すことが解決への近道だとわかっても、感情に素直になれない環境にある人も多いだろう。普段からペット友達と交流を持ち、同じペットを愛する者という立場から何かと相談できるような関係を作っておくのもいい。ペットが元気なうちに家族で『別れ』について話し合い、いつか来るその時を覚悟しておくという予防策もある。そして、ペットロスに苦しむ人に対しては素直に話のできる相手でありたい。

「いつまでも悲しんでいるとペットが成仏できないわよ」といった日本的な発想による発言は、相手を元気づけるために言ったつもりでも、逆に大きなプレッシャーになってしまうことがあるし、「別のを飼えばいい」といった無神経な言葉で相手を傷つけたりしないように注意したい。自分がペットロスに苦しんでいる時に無理解や偏見にあっても、それを気にしないことだ。


「ペットロス・ケア」

ハーバート・A・ンーバーグ&アーリン・フィッシャー
吉田千史/竹田とし恵=訳

(読売新聞社) \1785(税込)


吉田先生が翻訳を手がけられた日本初のペットロスのガイドブック。
世界で初めてペットロスについてまとまった形で書かれた名著
「A Thoughtful Guide for Adults and Children」の全訳だ。


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病的な悲嘆の場合は専門家のケアを


「通常のペットロスによって引き起こされる悲しみなど状態は極めて正常な適応的反応であり、それについて特別心配する必要はありません。悲しみの感情を素直に表現し、死を容認すればやがて回復します」と先生は言うが、ごくまれに例外もある。状態像が病的に悪化する例や、通常の回復の期間を過ぎ、何年たっても苦しみから逃れられない例である。

「実際には全体から見ますと本当に少ないケースなので、あまりここを強調されると困るのですが....」と先生は前置きをする。では、こうした病的なペットロスの場合にはどう対処したらいいのだろうか。答は「専門家のケアを受ける」である。

 家族や友達が話を聞いてあげるだけでは解決できないような難しい状況であれば、臨床心理士や精神科医などの中で、ペットロスに詳しいグリーフ(悲嘆)セラピストの援助を求めるという手がある。ただし、現在の日本では相談の窓口は非常に少ない現状であるというのも事実。こうしたメンタルケアのサービスが近い将来にも充実されることを期待したいところである。


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ペットロス体験の重症化傾向


 また、ここ数年で急に「ペットロス」という言葉がクローズアップされている理由の一つには、その深刻化があると思われる。飼っていたイヌやネコが死んで悲しいと思うという感情は昔からあったはずであるが、その重さがかつてとは比べようもなく大きくなっている。

 近年、急激に増えた室内飼いで劇的に近付いたペットと飼い主の距離。家族の人数が少なくなった上に家族間の交流も少なく、ご近所の付き合いもほとんどないような暮らしの中で、人間関係に求めても得られない愛や瘉しをペットに求める傾向は強くなる一方である。

 ペットを溺愛する人が、唯一のなぐさめであるペットを失えば、そのストレスも大きい。家族のように愛していたペットを失うことは最愛の家族を失うことに等しい。

「動物は神話の時代から母親のイメージで語られてきていることはご存じですか? 動物はグレート・マザー(太母)であり、原始時代、動物は神でした。そもそも神観念の起こりは動物崇拝から来ているんです。動物なしで宗教は生まれなかった。動物愛の起源も宗教と同じくらい古い。また、ペットを擬人化して子供のようにかわいがり、友達のように固い絆を感じ、さらに無意識のうちに母親のように慕っているような場合、ペットとの別れはその人にとって、子と友と母という3人の重要な愛する対象を一度に失うのと同じような体験に感じられてしまうのです。そうなりますと、喪失による衝撃の大きさや深さは想像以上のものとなります。そのような時には、たかがペットの死ではすまされない。親の死よりもつらいと訴える方が確実におられますが、それはこのような心理と関係があると考えています」と先生は分析する。

「ペットを愛するあまりペットが自分の一部、あるいは全部であるように感じているような場合、ペットの死を自分の死と同一視することで、自らの死のように感じ、それが後追い自殺を考えるような動機になる危険性もあります。ペットと自分の間に適度な距離がとれなくなっているような、いわゆる『べったり』の状態にあることが重いペットロスに陥る原因になっているのです」

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今からできるペットロスの予防法


 ペットを失えば悲しいのは当然であるが、そこから重いロス症状に陥らないために、ペットが元気なうちからできる予防法がある。

「まず、ペットは自分よりも先に死ぬものだと自覚することです」と吉田先生は言う。いくらイヌネコの寿命が延びたといっても10年生きれば結構な長生きである。人間の寿命に比べれば8分の1の短さだ。

「ですが自分のペットだけはいつまでも死なないような錯覚をしている人がとても多いのです」と先生は指摘する。確かに、ペットが絶対死なない(またはいなくならない)といつも思っているわけではいないが、「死(または別れ)」を間近にある現実として特に意識してはいないという人は多いだろう。大家族時代に比べ、人の死に遭遇することが非常に少なくなっている現在に生きる私たちにとって、「死」は経験的に理解することのできない不思議に遠い現象となってしまっているというのも一因かと思われる。

「大切なのはペットに依存しすぎない関係を保ち、ペット仲間を作っておくこと。ペットロスの正しい知識を持っていることも重いペットロスにならないための予防になるはずです」と先生。

 ペットとの別れに際し、その死をありのままに受容するために、常日頃から死別のことをよく考えておくという努力。いざという時に親身になって話を聞いてくれる理解者の存在。その悲しみが正常なものであり、3か月くらいで一段落すること、感情を出すことでやがて回復すると知っていれば安心して悲しみを外に出すこともできる。それがペットロスの深刻化を防ぐことになるのである。


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